作詞のネタ帳

日常や社会の出来事に対して自分の心に引っかかったことを元に作詞していますが、この心の動きを公開し、また作詞のアイデアとして使う目的で始めました。書いてる歌詞の意味がバレルかも(笑)

踊るマハラジャ その9

エンダァ〜イア〜 I will always love you〜ウーゥウウゥ〜…
(by ホイットニーヒューストン)

 

  ボディーガード。まさにそんな風体の男。今からガンジス川の地ヴァラナシの街を僕の行きたいところに連れて行ってくれるガイドだ。中年で中肉中背、しかし格闘技ができそうな体格、例えるなら映画「踊るマハラジャ」の主人公のよう。でもその主人公とは違い全く愛嬌がなく、質実剛健といった感じ。デリーでお願いした優しいガイドとは真逆な雰囲気。そしてその第一印象は実際裏切られることはなかった…

  このガイドは基本オートリクシャーの運転手。オートリクシャーとは自転車タクシーのオートバイ版だ。このガイドの運転するオートリクシャーに乗り再度ガンジス川に向かう。この旅でもう3回目。しかし前の2回は川の付近を見ただけなので、今回は街の様子や人となりを体験するいいチャンス。

  このガイドのおっさん、バイクに乗ると豹変する。こっちは急いでもないのにやたら飛ばすは、他の遅いドライバーにガンつけるは。まさにこち亀で出てくる本田さんのよう。こっちはリクシャーから振り落とされないように必至にシートしがみつく。インドの道路は渋滞が多く、排ガスと土埃で息苦しい。で、このガイドがこの渋滞をそのまま大人しく待つわけがなく、ちょっと他のリクシャーが車間を開けると、その隙間に食い込んで行く。車幅感覚も神業。すごい集中力とテクニック。それで他の運転手から文句言われても現地語で「テメェ、なんか文句あんのか、おら!」みたいなことを言ってる。なんとなくだけど… とにかく目が怖い。相手も怯んでるし。そして裏道を見つけては入り込んで行く。「ここ通っちゃう?」というところも関係なく。プロだ。客の行きたいところに一分一秒でも早く着く。また道具というものは極限までその性能を引き出して使いこなしてあげることが肝要。このガイドはこのバイクの性能を100%以上引き出してた。道具をコレクションのようにいたわって扱うのは愚の骨頂だよな、なんて事をこのガイドから学んだ気がする。楽器をやってる人間からしたら、まだまだ自分は使いこなしてないなぁと。

  ガンジス川に到着する。今回は車ではなくバイクなので川沿いの細い路地をガンガン入り込んで行く。ある建物の入り口付近でリクシャーが止まる。こっちだと言うのでガイドについて、その建物の中を通っている通路を進む。その先にガンジス川が見えた。外に出るとバルコニーみたいな広場になっており、川に降りる階段が続いている。
「サァ、タノシンデコイ」
下まで行ってとりあえず川を眺める。そこには人がちらほらといて全身沐浴してる人も目の前にいる。
「どうしよう、やっぱり浸かるのはいいかなぁ」
なんて思っていると
「オマエハ、ナカニハイラナイノカ」
なんて聞いてくる。
「ニモツモッテテヤルカラ、イッテコイヨ」
ガイドが背中を押す。
「うっ、足だけでも浸かろうかな。足からバイ菌はいらないかなぁ?でもまぁせっかくだし」
僕はせっかくと言う言葉に弱い。覚悟を決め荷物をガイドに預け靴下脱いでいざ着水。いたって普通、ただ生ぬるいだけ。そんな感想。自分もぬるいなぁと思いつつ。
「ドウダッタ?」
「よかったよ」
それ以上の言葉は出てこなかった。しかし自分は川に何を期待してたんだか…

  ここで初めてガイドと会話をする。大体中年のインド人と会話すると、最初に家庭を持ってるかと聞かれる。その時も最初の彼からの質問はそれだった。いや結婚はまだしてないと答えると、なんでだよ、早く家庭を持たないとダメだよと説教される。家族はすごくいいもんだと、家族を養うために俺は一生懸命やってると。見てみろと、財布の中から今までガイドした日本人の名刺を見せてくれる。どれも一流の会社ばかり。俺はいろんな人を乗せてガイドしてるんだと、誇らしげに語っていた。なんかガイドのいい人柄がよく伝わってくる会話だった。

 

「ツギハドウスル? カイモノカ?」
後からいつもそう思うんだが、買い物に連れてってもらうと、買わざるおえない状況になる。今回も結局自分がそれを見たいと言ったとはいえ、連れて行ってもらったところそれぞれで買う羽目になった。店から何かしらあるんだろう、ガイドもテンション高かったし。特にすごかったのがシルク屋。店に着いた途端従業員が工場見学に連れていくからと、バイクの後ろに乗れと言う。このバイク日本でよくバイカーが前かがみで乗ってる、女の子が後ろに乗るなら運転手に抱きつくタイプのやつ。えっこんなのに乗るの?しかもノーヘル。僕は運転手にしっかりと抱きついて出発した。バイクは颯爽と路地の細い道を進む。正直怖い。民家が立ち並ぶ一角の小さな工場で止まる。中についてこいと言うので入る。中では作業員が仕事をしてる。特に僕が入ってきても気にしてない様子、まぁいつものことという感じか。工場の二階に上がり、シルクの染付作業を見せてくれた。ちょっと演技ぽさを感じた。

  バイクのお兄さんと店に戻り、店主が商品を見てくれと、店に入れられる。店にはおびただしい数のシルク商品が並ぶ。店主が入り口のドアを閉める。完全な密閉空間となり、店主と僕の2人きりだ。店主は商品をいろいろ勧めてくるが、どれもとにかく高い。デリーで買ったらもっと高いぞと言うのが、売り文句。僕が渋ってるとどれを買うんだという雰囲気を出してくる。確かにシルクが見たいとは言ったけど、買うつもりはなかった。好奇心だけ。でも何か買わないとこの密閉空間から出してくれそうにない。結局欲しくもないシルクのスカーフを買った。僕のママンへのお土産として…

  こうして買い物も済ませたのでホテルに戻ることにした。ガイドはもう行きたいところはないのか?なんて聞いてくるが、他に買い物行ってもパターン的にお金使わされそうなのでやめた。別にこのガイドが悪いわけでない。彼は自分の仕事をしてるだけだ。

  ホテルへの帰り道、道を歩いてた子供が何やら運転しているガイドに話しかける。すると子供はリクシャーの運転席に飛び乗ってきて、ガイドの横にちょこんと座る。そして数百メートル進んで子供は降りて行った。なんか外国らしい微笑ましい光景。

  この日の予定としては、夜にタージマハルがある地への電車移動となる。しかしここでの現地観光の時間を早く切り上げてしまったので、ホテルに着いたはいいがまだ昼を過ぎたぐらいの時間。これから夜までどう時間を潰そうかとかと…