作詞のネタ帳

日常や社会の出来事に対して自分の心に引っかかったことを元に作詞していますが、この心の動きを公開し、また作詞のアイデアとして使う目的で始めました。書いてる歌詞の意味がバレルかも(笑)

踊るマハラジャ その9

エンダァ〜イア〜 I will always love you〜ウーゥウウゥ〜…
(by ホイットニーヒューストン)

 

  ボディーガード。まさにそんな風体の男。今からガンジス川の地ヴァラナシの街を僕の行きたいところに連れて行ってくれるガイドだ。中年で中肉中背、しかし格闘技ができそうな体格、例えるなら映画「踊るマハラジャ」の主人公のよう。でもその主人公とは違い全く愛嬌がなく、質実剛健といった感じ。デリーでお願いした優しいガイドとは真逆な雰囲気。そしてその第一印象は実際裏切られることはなかった…

  このガイドは基本オートリクシャーの運転手。オートリクシャーとは自転車タクシーのオートバイ版だ。このガイドの運転するオートリクシャーに乗り再度ガンジス川に向かう。この旅でもう3回目。しかし前の2回は川の付近を見ただけなので、今回は街の様子や人となりを体験するいいチャンス。

  このガイドのおっさん、バイクに乗ると豹変する。こっちは急いでもないのにやたら飛ばすは、他の遅いドライバーにガンつけるは。まさにこち亀で出てくる本田さんのよう。こっちはリクシャーから振り落とされないように必至にシートしがみつく。インドの道路は渋滞が多く、排ガスと土埃で息苦しい。で、このガイドがこの渋滞をそのまま大人しく待つわけがなく、ちょっと他のリクシャーが車間を開けると、その隙間に食い込んで行く。車幅感覚も神業。すごい集中力とテクニック。それで他の運転手から文句言われても現地語で「テメェ、なんか文句あんのか、おら!」みたいなことを言ってる。なんとなくだけど… とにかく目が怖い。相手も怯んでるし。そして裏道を見つけては入り込んで行く。「ここ通っちゃう?」というところも関係なく。プロだ。客の行きたいところに一分一秒でも早く着く。また道具というものは極限までその性能を引き出して使いこなしてあげることが肝要。このガイドはこのバイクの性能を100%以上引き出してた。道具をコレクションのようにいたわって扱うのは愚の骨頂だよな、なんて事をこのガイドから学んだ気がする。楽器をやってる人間からしたら、まだまだ自分は使いこなしてないなぁと。

  ガンジス川に到着する。今回は車ではなくバイクなので川沿いの細い路地をガンガン入り込んで行く。ある建物の入り口付近でリクシャーが止まる。こっちだと言うのでガイドについて、その建物の中を通っている通路を進む。その先にガンジス川が見えた。外に出るとバルコニーみたいな広場になっており、川に降りる階段が続いている。
「サァ、タノシンデコイ」
下まで行ってとりあえず川を眺める。そこには人がちらほらといて全身沐浴してる人も目の前にいる。
「どうしよう、やっぱり浸かるのはいいかなぁ」
なんて思っていると
「オマエハ、ナカニハイラナイノカ」
なんて聞いてくる。
「ニモツモッテテヤルカラ、イッテコイヨ」
ガイドが背中を押す。
「うっ、足だけでも浸かろうかな。足からバイ菌はいらないかなぁ?でもまぁせっかくだし」
僕はせっかくと言う言葉に弱い。覚悟を決め荷物をガイドに預け靴下脱いでいざ着水。いたって普通、ただ生ぬるいだけ。そんな感想。自分もぬるいなぁと思いつつ。
「ドウダッタ?」
「よかったよ」
それ以上の言葉は出てこなかった。しかし自分は川に何を期待してたんだか…

  ここで初めてガイドと会話をする。大体中年のインド人と会話すると、最初に家庭を持ってるかと聞かれる。その時も最初の彼からの質問はそれだった。いや結婚はまだしてないと答えると、なんでだよ、早く家庭を持たないとダメだよと説教される。家族はすごくいいもんだと、家族を養うために俺は一生懸命やってると。見てみろと、財布の中から今までガイドした日本人の名刺を見せてくれる。どれも一流の会社ばかり。俺はいろんな人を乗せてガイドしてるんだと、誇らしげに語っていた。なんかガイドのいい人柄がよく伝わってくる会話だった。

 

「ツギハドウスル? カイモノカ?」
後からいつもそう思うんだが、買い物に連れてってもらうと、買わざるおえない状況になる。今回も結局自分がそれを見たいと言ったとはいえ、連れて行ってもらったところそれぞれで買う羽目になった。店から何かしらあるんだろう、ガイドもテンション高かったし。特にすごかったのがシルク屋。店に着いた途端従業員が工場見学に連れていくからと、バイクの後ろに乗れと言う。このバイク日本でよくバイカーが前かがみで乗ってる、女の子が後ろに乗るなら運転手に抱きつくタイプのやつ。えっこんなのに乗るの?しかもノーヘル。僕は運転手にしっかりと抱きついて出発した。バイクは颯爽と路地の細い道を進む。正直怖い。民家が立ち並ぶ一角の小さな工場で止まる。中についてこいと言うので入る。中では作業員が仕事をしてる。特に僕が入ってきても気にしてない様子、まぁいつものことという感じか。工場の二階に上がり、シルクの染付作業を見せてくれた。ちょっと演技ぽさを感じた。

  バイクのお兄さんと店に戻り、店主が商品を見てくれと、店に入れられる。店にはおびただしい数のシルク商品が並ぶ。店主が入り口のドアを閉める。完全な密閉空間となり、店主と僕の2人きりだ。店主は商品をいろいろ勧めてくるが、どれもとにかく高い。デリーで買ったらもっと高いぞと言うのが、売り文句。僕が渋ってるとどれを買うんだという雰囲気を出してくる。確かにシルクが見たいとは言ったけど、買うつもりはなかった。好奇心だけ。でも何か買わないとこの密閉空間から出してくれそうにない。結局欲しくもないシルクのスカーフを買った。僕のママンへのお土産として…

  こうして買い物も済ませたのでホテルに戻ることにした。ガイドはもう行きたいところはないのか?なんて聞いてくるが、他に買い物行ってもパターン的にお金使わされそうなのでやめた。別にこのガイドが悪いわけでない。彼は自分の仕事をしてるだけだ。

  ホテルへの帰り道、道を歩いてた子供が何やら運転しているガイドに話しかける。すると子供はリクシャーの運転席に飛び乗ってきて、ガイドの横にちょこんと座る。そして数百メートル進んで子供は降りて行った。なんか外国らしい微笑ましい光景。

  この日の予定としては、夜にタージマハルがある地への電車移動となる。しかしここでの現地観光の時間を早く切り上げてしまったので、ホテルに着いたはいいがまだ昼を過ぎたぐらいの時間。これから夜までどう時間を潰そうかとかと…

踊るマハラジャ その8

Here Comes the Sun…ドゥンドゥドゥン

 

  早朝まだ日の昇らない時間に、ガンジス川に向かう。今回の旅のメインであるガンジス川クルーズ。早朝の街はさすがに静かだ。道に落ちているウンコに気をつけながら、昨日と同じ道を進み、川のほとりに着く。添乗員が言うには、川に泊まってる船の船頭にお金を払って川を周遊するとのこと。クルーズといってもただのボート。
  ボートにはこれまで1人も見かけなかった日本人の姿もちらほら。こういうとき日本人同士なんかよそよそしい雰囲気になるのはなんでだろう。自分もそういう雰囲気出してて悪いんだけどね…

  ボートが動き始めると、日が昇り始める。朝焼けにガンジス川は色づく。幻想的だ。川は特に臭いわけでもなく、不謹慎にも心のどこかで期待している死体が流れてくるということもない。というのも今の時期は雨季で、川は比較的キレイらしい。川岸で煙が上がっているのが見える。火葬をしていると教えてもらう。ここでふと我に帰る。葬式の行われている川岸からは割と離れている川に浮かぶボートからとは言え、その儀式を観光しているとは。不謹慎なことだよなと。よくよく見てみればボートにはインド人は乗ってない、観光客だけ。この状況をインド人はどう思っているのか。快く思ってないのか、そうでもないのか。インド人の添乗員は近くだとさすがに怒られるけど遠くからならいいよなんて言ってた。しかしその国の土着の文化に触れる場所で観光気分というのは良くないなと考えさせられた。聖地ってそういうところだけに。

  船は川を進んで行く。正直川上に向かってるのか川下に向かってるのかすらわからない。だって向こう岸さえ見えないくらい大きな川だから。川の中で沐浴してる人を見つける。どっぷり浸かっている。頭まで浸かったあと、更に顔をバシャバシャと洗ってる。日本人があれをやると確実にやられるw さすがに顔はつけちゃマズイ。とりあえず川に触れるなら手だけにした方が無難そうかななんて思う。
  川岸にはずらっと建物が並ぶように建っている。そこに日本語が目に飛び込んでくる。「久美子の家」。どうも宿泊施設らしい。日本人たくましいw

  クルーズが終了し、川に手で触れることにした。ファーストタッチ。手に傷がないか確認。傷があるとそこからばい菌でやられる。手の先を川の水につけ、その濡れた手を頬に撫で付けるつける。これで俺も何かが変わる!なんて思いながら。どんな汚いものだろうと、気持ち次第でありがたく感じるもんです、単純なんで…しかしなんか中途半端感が残る。もうちょい攻めるべきではなかったか。

  朝食をとってなかったので、近くのチャイ屋に寄ってもらう。本場のチャイ。沸騰した牛乳に直接茶葉を入れぐつぐつと煮込む。そしてそれを濾してできあがり。もちろんうまい。味も濃い。しかしインド人はよく牛乳を飲む。しかもホット。ホテルで飲んだコーヒーも同じ作りだったと思う。あくまで牛乳ベースでコーヒーをぐつぐつと煮る感じ。だってコーヒーの表面が膜張ってたからw

  この後はホテルに戻り朝食を食べた後、別のガイドが行きたいところへどこにでも連れてってくれるとのこと。まだ歩いてないのでガンジス川沿いを散策しながら買い物すると決めた。またもう一度川に触れてみたい思いもあり…

踊るマハラジャ その7

川の流れのように
人はガンジス川に何を求めに行くんだろう

 

  ガンジス川のある地、ヴァラナシには昼前に着いた。遅れることで悪名高いインドの列車の割にはそれほどでもなかった。
この地で世話になる添乗員は若く二十歳そこそこといったところ。どうやらホテルに向かう前に昼食を取るスケジュールらしい。まぁ店屋と何か提携してるんだろうなぁと思いつつ食事の気分の向かないまま店に向かう。当然カレー屋さんw 店に入ってが客は誰もいない。いくら一人旅とはいえ、誰もいない店だとさすがに滅入る。なんか騙されるんじゃないかとね…

  昼食を済ませホテルへ向かう。その道中車内では恒例のガイドの売り込みが始まる。でも今回は素直にお願いすることにした。デリーでの経験を踏まえて。インドではガイドなしではきついんです。
ガイドの内容としては、今日の夕方からガンジス川に行き、お祈りの儀式を見る。翌日は早朝にガンジス川クルージング。昼から市街地観光となる。
  添乗員は昔日本の有名人をガイドしたことがあるんだと自慢し始めた。でもはっきり名前を覚えてないらしい。ミュージシャンで坊主頭で実家がお寺でなど特徴が出てきた。ファンモンの人?と聞いたら、そうらしかった。みなさん導かれてるw

  ホテルに着いた。夕方のガンジス川観光まで時間がある。列車移動で寝不足だったのでシャワー浴びて少し寝ることにした。しかしインドのホテルのシャワーはどこもほぼお湯が出ない。お湯の蛇口をひねってるのに、いつまで待ってもお湯は出てこない。暑い国には不要か…すでにお風呂が恋しい。

  夕方になり添乗員と共に、ガンジス川観光に行く。地方都市とは言えそこは聖地、道沿いには多くの店が軒を連ね多くの人が歩いている。まるで縁日のお祭りのようだと言いたいところだけど、基本インドの街はどこでもお祭りのような雰囲気なんで、ある意味変わらない風景。デリーでは見かけなかった牛が普通に道路を闊歩してる。車を降り、添乗員に導かれガンジス川に続く道を進む。

「キヲツケテネ、ソコ!」

ソコ…にあるのはウンコ!!巨大な牛のウンコ。踏んだらそいつに靴全体が包まれるほどの。
  余談だが今回の若い添乗員さん。かなりできる男である。ガイドの仕方、担当外の観光客や同業者への接し方、全てがスマートである。さっきみたいに道にウンコが落ちてればすぐさま教えてくれるし(ヴァラナシの道は牛に限らずいろんなウンコが至る所に落ちてる)。 どこの国にもこういうできるやつはいる。どうもこのお兄ちゃんガイドで知り合った日本人の女の子と付き合ってるそうで、近い将来その子と結婚して日本に行くそうだ。関西の子らしいけど、もう来てるのかねぇ。


  ガンジス川、現地名ガンガー。近づくにつれ気分が高揚する。自分の中でいろんな思いが湧き上がり交錯している。行くと人生観が変わる、仙人みたいな修行者、人や動物の死体が流れてくる、生と死が交錯する神聖な場所…
  川のほとりに着くと、インド音楽が大音量で流れている。添乗員によると川に面している建物の最上階のテラスで、祈りの儀式を毎日やっており、その儀式をガンジス川の岸に停められている船の上から観るというのが、今回の夜のガンジス川観光の趣旨。
  普通宗教の儀式というと厳かなものなので、見てて決して面白いものではないが、このインドの儀式は見ててなんか楽しい。儀式の最中ずっと大音量でインド音楽が流れ、まるでフェスのよう。儀式を行なっている司祭もそれぞれダンスと言ったら怒られそうだが、踊りつつパフォーマンスをしている。ヒンズー教について何も知らない自分にとっては、この儀式は神様を崇めているというよりも、なんかもてなしているように感じる。暖かい国は儀式も陽気だ。
  個人的な想いだけど、葬式は明るい方がいいと思ってる。しんみりするより、故人の生前の思い出を楽しく語りながら、メシを食べたり酒を飲んだり。儀式ばって一方的なものよりは。死にもいろいろあるので一概には言えないけど、本人が望んでるんであればそれもありかと。

 

  自分がガンジス川に期待してたものは、夜ということもあり見ることはなかった。翌日はいよいよガンジス川のクルーズ。一体何を体験できるのか。そして川に浸かりたい衝動にちょっとだけ駆られてた…

踊るマハラジャ その6

I'm going off the rails on a crazy train.
(俺は狂った列車のレールから降りるつもりだ by オジー オズボーン)

降りられない…

  デリーからガンジス川への移動は寝台列車。ホテルから駅まで送ってくれるのは、初日にガイドを断った添乗員。
  「デリーカンコウハ デキタノカ?」
  「いやぁ、大変だった。あんたの言う通りだったよ」
  「ダカラ イッタデショ。ムリダッテ」
  半分正解で、半分不正解な気持ちだけど、まぁ駅まで送ってもらうんで。

  駅に着いて、ひとつ心配になる。夕方出発して朝に着く長時間移動なのにメシはどうなるか?添乗員に聞く。
  「シャナイハンバイ アルケド オマエハ ナニカ カットイタホウガ イイカモ」
  店に案内してもらいサンドイッチみたいな食べ物をゲットして、ホームに向かう。
  ホームにはまだ列車は来てなくて、それまで添乗員とたわいもない会話で時間を潰す。その間に何度も物乞いの人がやってくる。添乗員は自然な感じで小銭を渡す。
  列車がホームにやって来た。いよいよ初列車だとテンションが上がる。でも自分の目の前に停車した瞬間不安になる。
  「あれっ、窓ガラスがない…」
  目の前に止まっている電車の窓は、ガラスはなく窓枠に二本棒が横に付いてる、漢字の「目」のような吹きっさらしの列車だ。
  「えっ、これなの?」
  自分はツアーを頼むときに、エアコン付きの列車だと確認している。なんでガラスがないの?これがインドのエアコン?はぁ?
  「アレ、オカシイナ。チョトミテクル」
  そして添乗員が戻ってくる。
  「ワルイ、ムコウダ」
  ビビらせるんじゃない…この車両は一般席のようだ。

  ホームを歩いてようやく窓ガラス付きの車両にたどり着く。予約制の等級の高い車両は入り口に紙の乗客リストが貼ってある。添乗員はリストから僕の名前を見つけ、ここだと中まで案内してくれてる。そして席を確認するとお別れをした。いいヤツだったので、ガイド断ったのはちょっと悪かったなぁと思いつつ、チップは弾んでおいた。

  僕の席は日本で事前に確認していた通り、3人がけシートが向かい合ってる6人席だ。当然僕の他はインド人。車両全体で見ても日本人は僕だけ。とりあえず同じ席の人にあいさつする。出発してしばらくすると車内販売が始まる。インドの皆さんは一斉に買い始める。興味津々で彼らが何を買ったのかをガン見する。アルミホイルのフタがついた弁当らしきものを二つ持っている。彼らはそのフタを取る。カレーとゴハン。弁当だけど汁物w

  みんな食事を済ませて、僕以外は一家団欒といった雰囲気。しかしそんな団欒の時間をぶち壊すノイズが僕らを襲う。通路を挟んだ反対側の席の二階で寝てる小太りのおっさんのイビキ。これが尋常でない。クレイジーなほどイビキがデカく、しかも呼吸したりしなかったりのやばいやつで、しまいには寝ゲロまでしてて、見てるこっちが痛々しくなってくる。自分はこんなこともあろうかと耳栓を持ってきてたが、それもほとんど役に立たず。隣のインド人とも
  「何じゃありゃ」
って笑いあった。まさにインド人もびっくりってやつ。早く降りたいと願った…

  こんな一夜を過ごし、列車内で朝を迎える。駅を乗り過ごすのが怖いのか早く目覚めた。海外の列車は日本のとは違い、走ったり止まったりノロノロだが、インドも例外なくノロノロ走ってる。車窓から見える風景は、もう日本ではお目にかかれない昔の農村の風景。線路沿いに並ぶ壊れかけの家。庭に畑があり、牛、鶏、犬が放し飼いされてる。住人は井戸から水を汲んで顔を洗ってる。ノロノロ運転なので、そんな人たちと目が合う。のどかだ。時間がゆっくり流れてる。今の日本で生活している自分が、このような生活はできないだろう。便利で清潔な生活、別に便利な生活が人生を幸せにしてくれるわけではない。でもこういう生活を目にすると、ものに溢れているよりも、ものがない方が希望があるような感じもする。子供の頃は欲しいものだらけだったけどなんか希望があった。でも欲しかったものを手に入れると、もうその幸せは逃げていく。今となっちゃ欲しいものすらあまりない状況。幸せとは相対的なもの。

  いよいよガンジス川のある地ヴァラナシの駅に着く。ここで降りるのかどうか不安に思ってると、次の地の添乗員が列車に入ってきて降りろと言う。なかなか良くできてる。こうして今回の旅のメイン、ヴァラナシの地に降り立った。

 

踊るマハラジャ その5

  TRUTH IS GOD

 

  「ツギドコイク?
  「ガンジーの博物館見たい」
  「ワカッタヨ!」

 

  ガンジーインド独立の父、非暴力・不服従運動は世界のほとんどの人が知ってるだろう。世界大戦という食うか食われるかの時代に真逆の非暴力・不服従の考え方で国民をまとめ、独立を勝ち取った偉人に深い感銘を覚える人も多いだろう。自分も映画のガンジーを見て、見終わった後ガンジーモードになった一人w

  僕を乗せたリクシャーは博物館に到着する。ガンジー国立博物館だ。


「チュウシャジョウ二 リクシャーオイテクルカラ サキニナカデミテテ。タダデハイレルヨ」

 

  博物館の入り口には壁に「TRUTH IS GOD」と書かれている。なんか神妙な気持ちになる。
  とは言えまぁ博物館なので他所と同じように、ガンジーの生い立ちや生前に使用されていた日常品などが飾られてる。おっちゃんも中に入ってきて、一生懸命ガイドをしてくれる。中をひと通り見終わった後におっちゃんはここのメインイベントを紹介するかのごとく僕を外に誘導する。


  「ゴールドノガンジーダ」


  まっ金金ガンジーさんの銅像。さすがインド。金が好きw
  おっちゃんに像の前で記念撮影を再度連写してもらいw ここを離れる。

 

  次はその近くにある、ラージガートといわれるガンジーが荼毘に付された場所だ。側には川がありそこに遺灰が流されたとのこと。大きな記念公園といった感じ。ガンジーを偲ぶところだけあって、インド人が多く来ている。神聖な場所は土足禁止なので、ここも靴を脱いで、有料で靴を預ける…
  広場の真ん中にシンプルなお墓のようなモニュメントがあり、みんなが祈りを捧げている。自分もお祈りをし、記念撮影でもしようとしていると、近くのインド人にやたら声をかけられる。


  「イッショニ シャシンニ ハイッテヨ」


  なんか人気者である。自分を中心にインド人が収まり記念撮影が始まる。こんな経験日本ではないだけに、ちょっといい気になる。後から調べてみるとインド人あるあるのようで、記念撮影で外人と一緒に撮りたがるらしい。なんだぁw

 

  ここを見終えると、リクシャーのおっさんは自転車で回れる範囲で観光名所はもうないと言う。なのでメシを食って駅まで送ってもらうことにした。その道中も街についてガイドしてくれる。話によると街は宗教によって地区が別れていて、ヒンドゥー教イスラム教、シーク教それぞれ通る度に教えてくれる。やっぱりその宗教の地区に入るごとに雰囲気が違う。例えばシーク教のエリアに近づくと、日本人がインド人を想像するとき真っ先に頭に浮かぶあのターバン姿のヒゲモジャの人ばかり。そうターバン姿の人たちというのはシーク教徒で、インド人がみんなこの格好をしているのではない。

  宗教ごとに住むエリアが違うというのは日本人感覚からするとなかなか想像がつかない。長い歴史の中でこうなることがベストだったんだろうか。角を一つ曲がれば異文化というのはなかなか経験できないことだ。

 

  賑やかな通りを走る。車、リクシャー、人で大渋滞。砂埃もひどい。こんなんだから車とおっさんのリクシャーがぶつかる。おっさん激昂し何か言ってる。車の運転手とにらみ合いになる。でもそれで終わり。ぶつかってもめんどくさくない。潔いw

 

  こうしておっさんの馴染みのカレー屋で昼食を食べ、駅まで送ってもらう。お礼にチップをはずんだらおっさんは満面の笑みだった。こっちまで嬉しくなっちゃう。いやよくやってくれました。僕の片言の英語でも割と会話は続き、僕が飲み物を欲すれば細い路地の中、道幅ギリギリでUターンして飲み物屋まで戻ってくれる。感謝しかないなぁ。どうせ無愛想であまりサービスしてくれないだろうと想定してただけに余計。

 

  インドでは宗教や言葉や文化が違う人々がひとつの国に大勢住んでるということは頭では理解していた。しかし実際にこの目で見てみると、思ってた以上に人間濃度が濃いし、宗教色が強いし、テンションは高くないんだけどエネルギッシュだし、遠慮がちな典型的日本人としては躊躇しっぱなしだった。文化や信条も違うインドの人たちをガンジーさんはよくまとめたなぁと。ホントすごいです。インド人が今でも尊敬してる人。

 

  その後その足でニューデリーに行ったんだけど、都会だけにやたら悪そうな人に声をかけられる。仕方なく入った観光案内みたいなところでは、軟禁されそうになるし散々。いいことも悪いことも含めて旅はこんなもんか。

 

  翌日はいよいよガンジス川、向こうでの呼称ガンガーに向かう。そしてこの旅で一番心配している寝台電車での移動。これもやっぱり大変でして…

踊るマハラジャ その4

  ドナドナドナ ドーナ リクシャー揺れる

  僕の雇ったリクシャーのおっさん(ただ声を掛けただけだけど)、乗る前の交渉でガイドもするとのことだったので、自分が見たいところを案内してもらうことにした。こうやってマンツーマンでガイドを使うのは初めての経験だ。
  そしてこれまた初めて乗るリクシャー。三輪自転車で後ろ側に乗客用の屋根付きの座席があり、そこに乗ってオールドデリーの街中に入っていく。三輪自転車なんてまだ自分が幼かったころ、おばぁちゃんの三輪自転車の後ろの荷物カゴに乗っかってたとき以来だ。
  進み始めてすぐおっさんは頼んでもいないのに、ガンジーの像を見るかと聞いてくる。そんなところガイドブックには載ってないが、まぁとりあえずインドと言えばガンジーなんで、オーケーだと返事をする。
  リクシャーは公園のような場所の敷地に入っていく。
  「ツイタヨ、アレガンジー
  確かに背の高い台座の上に、ガンジーが立っている。高知の桂浜の坂本龍馬の像みたいだ。しかしあたりには誰もいない…
  「ピクチャートルカ?」
  正直どっちでもいいなと思いつつ、自分のアイフォンを渡す。
  「使い方わかるの?」
  「ノープロブレムダ」
  いざ撮ってもらう。


  カシャカシャカシャカシャ!!!


  連写しやがったw おっさん何が起こったんだという顔をしてる。そりゃあの連写音が鳴ればねぇ。大丈夫な事を告げて、お互い笑いあった。しかしこの場所、観光名所ではないようで、今書いてる時点でもグーグル地図で場所が見つけられない…

  リクシャーは僕の最初の目的地ジャーマー・マスジドというインド最大のモスクに向けて進む。かと言ってそこに思い入れはない。単純にガイドブックに載ってたから、まぁ俗に言う観光名所だ。おっさんは近道だからなのか、細い路地道を縫うように進んで行く。その路地は大通りと違い生活臭に溢れている。人々は普通に食事の支度をし、買い物をし、宗教上の儀式をしている。上を見上げれば蜘蛛の巣のように張り巡らされている電線。猿も頻繁に見かける。乳搾り用のヤギもいる。それらのすべてが生活の中で共存している。
  永遠に続くのかと思われた細い路地を抜けると、モスクが見えてくる。
  「アレガモスクダケド、ナカニハイルノカ?」
  「もちろんだよ」
  「ヤメタホウガイイヨ
  「えっ、なんで?」
  「ガイドツケラレテ、スゴイオカネトラレルヨ。ココデミルダケデイイヨ」
  いや、せっかく来たんだし。
  「大丈夫だよ、ガイドなんて断ればいいんだから」

  モスクに着く。おっさんはここで待ってるからと僕に告げる。モスクの入り口に意気揚々と進んで入場料を払う。ここから流れ作業に巻き込まれる。言われるがままに靴を脱がされ、それを預け、長い布を腰に巻かれスカートのような格好にされる。宗教上の理由だから仕方ない。そしてこれら全てにお金が取られる。そしてその流れのままガイドがつけられる。断る隙もなく即ガイドがスタートした。そのガイドも流れ作業で進行し、正味10分ほどで終了。代金の請求をされる。おいしい商売である(ガイドの正確な値段忘れたけど、ネットで調べてみると1000円ぐらい)。
  モスク自体は歴史のある建造物だし、信者の方のお祈りの様子を見たり、自分自身がお祈りをする体験できたことは有意義だった。ただ宗教施設だからなのか物乞いも多く、残念に思ったのは自分の幼い娘、2〜3才の子を利用してお金を乞わせてるのには心が痛んだ。だってその娘、僕の服を何度も何度も引っ張ってくるんだもん。貧富の差、これもこの国の実情である。


  出口を出るとおっさんは待っててくれた。
  「ドウダッタ?ヨカッタカ?」
  「いや、あんたの言う通りだったよ」
  「ソウダロー」
  おっさんは笑ってた。ちょっと嫌な思いのするモスク見学だった。でも逆におっさんに対する僕の信頼度はものすごくあがった。

踊るマハラジャ その3

  インド人の顔、ほぼ真顔。濃いー顔で真顔

 

  インド2日目の朝、優雅に朝食を取る予定が、誰も利用客のいない食堂でひとり食事するという恐怖を味わった後、デリーの街を探索するために外に出た。

  宿の近くに駅があることは前日の夜の散策で把握していたので、電車での移動を決めていた。目指すはオールドデリー。人々のディープな生活ぶりが見たいから。しかし海外では毎度毎度だが電車に乗るのも大変である。まず乗り方がわからない。ガイド本によると1日乗車券があるらしく、こいつを買うことにした。なんとこのカードは最新のタッチ式。ちょっと拍子抜け(何を求めてるんやらw)。そして改札ではまさかの空港ばりの荷物チェック。X線のやつだ。マジっすか。

  改札を済ませ、ホームで電車を待つ。一度ニューデリーの駅で乗り換えをして、オールドデリーへの行程。電車がやって来る。満員電車だ…でもご安心を。よくテレビで見る、電車から乗客がはみ出したり屋根の上に乗っかってるやつではないw  この路線は改札でも触れたが、最近開通したもので最新の設備の鉄道。満員電車といえどイメージは日本のそれと同じ。ただあんなに多くのインド人に囲まれるというのが唯一の違いで、心細い。

  ニューデリーの駅で電車を降りる。近代的な駅だ。構内の上の方にあるベランダに目をやると、軍人みたいな人がライフルを肩に下げて見回っている。オールドデリーに向かう電車は地下鉄で、もうすでにホームに停車していた。急いで空いてる車両に乗り込む。さっきの電車とは大違い。空いてるし、なんか電車の中はカラフルだし、いい匂いするし、女性ばかりだし。

 「あれっ…もしかして女性専用車両

 そりゃ女性の民族衣装のカラフルさで目がチカチカするはずだ。急いで隣の車両に移る。

  さてどうにかオールドデリーの駅で降りて、地上に出る。相変わらず見渡す限りの人だらけ。街の風景は現代的な都会のそれではなく、自分の貧相なイメージでしかないけどバザールという感じ。まさに僕の思っていたインド。この時はまだヘビ使いとかいないかなぁなんて余裕をかましている。地図を片手に何か目標物を探す。しかしどれだけ周りを歩いても、自分が今どこにいて、どこに向かってるかがわからない。まぁ簡単に言えば迷子w  しかし自分もいい大人だし海外旅行経験も少なからずあり、街の探索で困ったことはほぼない。しかしである。とにかくこの時は方向感覚がつかめず、今自分が北に向かっているのか、南なのかが全くわからない(同じようなことは岐阜県でもあった。単純に海のない内陸の地が苦手なのかな…)。

  30分ぐらいグルグルとあたりを歩き回るが、ランドマークらしい建物も見つからず、全くラチがあかない。後から思えばだけど、オールドデリーにはそんなに高い建物はないし、街中建物だらけの超密集地域なので見渡しがよくない。また思ってたよりも大きな街なので自分の中の距離感覚も誤っていた。
  体中からは冷や汗が噴き出してくる。やばい自己解決できない。何とかしなければ。ふと駅を降りた時からずっと目に付いていた自転車タクシー、現地名リクシャーの存在が頭をよぎる。駅前には日本のタクシーとは比にならないぐらい待ち行列を作っている。しかし初インド、とにかくインド人の顔が怖いのである。みんな真顔で表情がない。特に駅前で虎視眈々と客を狙っている輩の眼光鋭い目には萎える。どうしても声をかけるのを躊躇してしまう。

 「ダメだ、もうちょっと自力で頑張ってみよう」

 駅を離れランドマーク的なものを再度探す。しかし見当たらず、とうとう精根尽きた。もうダメだと心が折れそうな時、前方にインド人にしては柔和な顔つきで痩せ型の50代くらいのリクシャー乗りのおじさんが目に入った。

 「この人しかいない!なんかトラブってもこの体型ならなんなとかなる」

 と確信し声をかける。結果的には大正解な人選であり、旅の中でも思い出深い経験となった訳で。続きはまた。